深 層 を 読 む(2018年)

2018/7/16 「米朝関係の行方ー宥和政策かデタント政策か」

(滝田賢治 中央大学名誉教授)  

 6月12日の「米朝首脳会談」から約一ヵ月が経過したが、その評価を巡っては依然として評価が真っ二つに分かれたままである。金正恩は指導教授(mentor)と初めて顔を合わす入学したての大学院生のように緊張した面持ちでトランプと握手を交わしたが、共同宣言に署名し分かれるときにはやや上気したかのような雰囲気を漂わせて振り向くこともなく踵を返して足早に去っていった。この対照的な2つの場面が、真っ二つに分かれている評価を象徴しているように見える。
 
 トランプ政権成立により高まりに高まった米朝軍事衝突の可能性を回避し、東アジア地域における軍事的緊張を緩和し、さらには同地域における地政学的条件を大転換させる契機になるかもしれない、という肯定的評価が一方にある。トランプ自身も自らのツイッターや支持者の前での演説で「北朝鮮からミサイルが飛んでくるかもしれないと夜も眠れなかった」状況は消え、「これからも(北朝鮮の非核化に向け)金委員長とうまくやっていける」と自信を見せている。初めて握手を交わしつつ、左手で金正恩の右腕を軽くトントンと叩きながら、これから自分が金正恩を指導していくのだと世界中のメディアにアピールしていたように見える。「北のICBMがアメリカ本土を狙っている」、「北のミサイルが東京に着弾して膨大な犠牲者と被害が出る」という言説が日米韓を中心に広がり、「米朝もし戦わば」という緊迫した雰囲気を、米朝首脳会談が一変させたことは疑いない。少なくとも当面、北朝鮮の「暴発」とトランプ・アメリカの対北軍事攻撃の可能性は大幅に減少した。

 しかし他方で指導教授トランプは新入生の金正恩に説得されてしまったのだという厳しい評価があるのも事実である。「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)という高いハードルを設定しておきながら、体制保証とリンクさせた段階的非核化を実質的にはトランプ政権に受け入れさせてしまったという批判である。いわばヒトラー政権の暴走を許してしまった「ミュンヘン会談」での宥和政策(Appeasement Policy)だったと言わんばかりの批判である。本来の意味での宥和政策と「ミュンヘン会談」でのそれは厳密には異なっているが、宥和政策は欧米では、敵国に騙され、結果的に敵国を甘やかしてしまうものという誤解が流布している。外交用語としての本来の宥和政策は、「一方でいざという事態に備え軍事態勢は整えつつ、他方で相手国との鋭い対立・緊張の原因を交渉を通じて少しずつ除去していくもの」であるが、1930年代末の英仏は軍事的即応態勢を十分にとりつつ時間を掛けて徐々に対立点を除去していかなかったため、ヒトラー政権の暴走を許したのである。

 一回限りの「ミュンヘン会談」とは異なり、「米朝首脳会談」以後、両国間の様々なレヴェルでの交渉が継続的に行われており、米朝関係は「極度の緊張・敵対関係を徐々に緩和していくプロセス」としてのデタント政策と見るべきものであろう。経済制裁に苦しんでいた北朝鮮は、平昌オリンピックへの参加とこれを最大限に利用した韓国・文在寅政権のイニシアチブによる南北会談を奇貨として、それまでとは打って変わって柔軟で平和的国家というイメージを国際的に広めるパーフォーマンスを演出しつつ、中露を「保証人」とすることにより、院生・金正恩は指導教授・トランプと対等な関係でデタントのプロセスを展開しているとみるべきであろう。「金正恩は国民に草を食べさせても核開発を進めるであろう」と言い放ったロシア・プーチンの言葉を引用するまでもなく、北朝鮮は核・ミサイルを放棄することはあり得ないとみるべきである。7月7日に行われた米朝高官協議で金正恩側近の金英哲(キムヨンチョル)はポンぺオ国務長官に対して、それまでの抑制的な姿勢から一転して「アメリカは一方的で強盗のような非核化要求だけを持ち出した」と強く非難したと報道されていることが暗示しているように、米朝関係は長く困難なデタントのプロセスに突入しつつある。1970年代の米ソ・デタントは、結局、ソ連の時間稼ぎに利用されたという評価がアメリカ議会内外で澎湃として起こり、結局、米ソ新冷戦を引き起こしたが、米朝関係は同じ道をたどるのであろうか。

2018/7/7 「対立の世紀」

(蟹瀬誠一 国際ジャーナリスト・明治大学教授)  

 強欲な不動産業者ドナルド・トランプがなぜアメリカ大統領に選ばれたのか。その答えが改めて鮮明になった。不法移民摘発の「ゼロ・トレランス(不寛容)政策によって、米国に不法入国を試み拘束された親子が引き離されるという人道危機を引き起こしたからだ。じつに心ない野蛮な、そして不要な政策だ。

 メキシコやラテンアメリカ諸国から米国に不法入国者の数は10年前と比べて大きく減少している。トランプが始めた非人道的政策の他には南の国境で「危機」など起きてはいないのだ。しかしトランプは過激な言葉でアメリカ国民の失業や押し寄せる外国人に対する恐怖と怒りを煽って国家を分断し、それを踏み台にして大統領の座まで上り詰めたのだ。

 メキシコ国境に「壁」を造るとぶち上げて大統領に当選したトランプ氏だが、議会はいまだに予算を承認していない。建設費用はメキシコに払わせると息巻いたがメキシコからあっさり拒否されてしまった。そこでその腹いせに始めたのが今回の不法移民を容赦なく逮捕・起訴し親と子供を別々の収容施設に隔離してしまう「ゼロ・トレランス」だ。従来は入国が認められる場合も追放される場合も家族は一緒というのが慣例だった。

 4月中旬から5月末までに親と別々に収容された未成年の不法入国者は約2000人にものぼり、泣きながら母親を呼ぶ5歳に満たない子供たちも多く含まれている。
 これにはさすがに民主党はもちろん、共和党サイドからも「野蛮」「非人道的」と反対の声が上がった。それだけではない。トランプ大統領のメラニア夫人やブッシュ元大統領夫人ローラ・ブッシュさんなど5人の「ファーストレディ」も親子引き離し政策を止めるよう訴え、ローマ法王フランシスコが批判の声を上げた。これには鉄面皮のトランプ氏もさすがに形勢不利と判断したのだろう。20日になって親子を別々にしないよう命じる大統領令に慌てて署名した。

 だが、それで問題が解決したわけではない。なぜならトランプは「不寛容」政策を諦めたわけではないし、政権の排他的孤立姿勢は一貫しているからだ。昨年1月のTPP離脱を皮切りに、ユネスコから脱退。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」やイラン核合意からの離脱も表明し、今月カナダでのG7サミットでは途中退席して後足で砂をかけた。さらに先週、国連人権理事会からの脱退を表明した。また、欧州連合(EU)や中国に対して関税を乱用して無用な貿易摩擦まで引き起こしている。

 トランプとは信頼関係を築いたと豪語する安倍首相には、国際協調を標榜する日本の代表として、本当にそれでいいんですかと大統領に直談判してもらいたいところだが、G7の席で、「私が(日本に)メキシコ人を2500万人送れば、シンゾー、お前はすぐに退陣することになるぞ」(ウォールストリート・ジャーナル紙)と凄まれて尻尾を巻いているようでは甚だ頼りない。

 先週、都内でアメリカの政治学者でリスクコンサルティング会社ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマー氏と久しぶり再会した。彼は、今やグローバリズムは破綻し、21世紀は「対立の世紀」になったと分析している。それがトランプという異形の米国大統領を生み出したのだと。(終)

2018/7/6 「女性と若者がキーワードの中間選挙」

(川上高司 拓殖大学海外事情研究所所長)    

 トランプ大統領にとって、国際政治よりも秋の中間選挙のほうが重要である。中間選挙で共和党が勝利を収めれば再選が現実味を帯びてくる。そのためには手段を選ばず、ひたすら支持率の向上を目指すことになる。外交政策も国際社会の変動や情勢よりも支持率アップのために展開されるのだろうが、国益無視の迷走となる可能性は高い。アメリカの外交がますます荒れると考えられ、世界にとっては迷惑な話である。

 それは中間選挙の情勢で共和党が不利になればなるほど顕著になるだろう。今回の選挙の民主党の巻き返しは激しいものとなるに違いない。勝利のために民主党はいち早く戦略を変えてきた。「今年の選挙のテーマはジェンダー」と見極め、女性候補を多く擁立するつもりなのである。6月のウォールストリートジャーナルの世論調査では女性のうち37%が女性候補に投票したいと答えた。

 これは#metoo運動やトランプ大統領の女性蔑視の姿勢と深く関係がある。トンランプ大統領はいまや女性の敵なのである。とりあえず民主党の女性候補に投票すればまし、という有権者の心理が働く可能性は高い。

 アメリカ調査会社のピューリサーチセンターの6月の世論調査によれば女性有権者のうち32%が無党派層であるが、そのうちの56%が民主党よりである。2016年には54%であったがトランプ大統領になり女性の民主党支持が微増している。逆に女性の共和党支持は微減した。この傾向は人種を越えている。白人の女性の民主党支持者は2016年から増加傾向にあり48%となった。黒人女性では87%、ヒスパニックでも66%の女性が民主党を支持している。

 世代間のギャップも深刻である。1980年以降の生まれでは70%の女性、49%の男性が民主党を支持している。一方年齢層が上がるにつれて共和党の支持率があがり、ベビーブーマー世代では女性の53%、男性43%が民主党を支持しているが若年層に比べると支持率は下がっている。

 つまり、民主党支持層は若い世代で女性が主流ということである。さらに非白人となればますます支持は高まる。この支持層はマイノリティー連合とも言えるが、まさに現職大統領の男性、高齢、白人へのアンチテーゼである。今年の中間選挙に注目したい。
 

2018/5/22 「エルサレム移転」(北國新聞寄稿文)

(蟹瀬誠一 国際ジャーナリスト・明治大学教授)  

 
「祖国を失うほど、この世に深い嘆きはない」 
 そんな古代ギリシャの悲劇詩人エウリピデスの言葉を彷彿とさせるのがパレスチナ紛争だ。先週、毎度お騒がせのトランプ米大統領がその中東の火種を一気に燃え上がらせてしまった。
 5月14日、かねてから「イスラエルの首都はエルサレムだ」と宣言していたトランプ氏が、国際世論の反対を押し切って、在イスラエル大使館のエルサレム移転を決行したからだ。たちまちパレスチナ各地で抗議のデモが続発。パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル治安部隊の発砲で59人が死亡、負傷者は2000人以上という大惨事となった。しかし、大使館移転でなぜそんな大騒ぎになるのだろうか。
 その答えは、イスラエル建国の歴史を溯ると見えてくる。大昔、ユダヤ人はパレスチナ地方に王国を持つ民族だったが、紀元前586年に新バビロニアに滅ぼされた。それ以来、流浪の民となって世界に離散、欧州などで迫害を受け続けてきた。その間にパレスチナ地方に住み着いたアラブ人がパレスチナ人である。
 第一次世界大戦時、パレスチナはオスマントルコの支配下にあった。敵対していた英国は、現地のアラブ人を武装蜂起させようとこの地域に「アラブ人の国」を建国することを約束。その裏で、ユダヤ財閥に戦費の援助を受けた見返りに、同地に「ユダヤ人の国」を建設することも約束した。さらには、仏・露と大戦後に中東地域の「領土分割」をしようとも約束したという。この英国のあきれた“3枚舌外交”がパレスチナ問題の始まりなのだ。
 その後、1947年の国連総会でユダヤ人とパレスチナ人の間でパレスチナの土地を分割する決議が採択された。だが、人口の大多数を占めるパレスチナ人にとって著しく不平等な条件であったため、反対する周辺のアラブ諸国を巻き込んで中東戦争が勃発した。決議の背景には米国の国内事情があった。大統領選挙を控えたトルーマン大統領が国内のユダヤ人の支持を獲得しようとイスラエルを強力に後押ししたのである。
 その結果、イスラエルがパレスチナ地域のほとんどを支配。今も対立が続いている。イスラエルはエルサレムが首都だと主張しているが、3大宗教の聖地であるため国際的には認められていない。ところが、トランプ大統領が大使館移転を強行しイスラエルの主張を一方的に支持したため、アラブ側の怒りが爆発したわけだ。イスラエルとイランの軍事衝突も激化し、中東情勢は火薬庫に逆戻りしてしまった。(終)
 

2018/4/16 「トランプ『任務完了』」

(蟹瀬誠一 国際ジャーナリスト・明治大学教授)  

 
 トランプ米大統領がまたシリアにミサイルをぶち込んだ。しかも昨年4月のおよそ倍の105発。今回はイギリスとフランスも参加したが、やるときは一気に派手にやれというトランプらしい。ターゲットとされた化学兵器関連施設は破壊され、敵対するイランやロシアからの反撃はなかった。それを知ったトランプはさっそく誇らしげにツィートした。
「完璧な攻撃。任務完了!」

 確かに戦術的にはそうかもしれない。しかし地政学的要所として7年間も血まみれの戦場と化し、約50万人が死んでいるシリアに秩序をもたらすという戦略的目的にはまったく寄与していない。シリアの現実はなにひとつ変わっていないからだ。

 むしろロシアを後ろ盾としたアサド政権に西側の限界を露呈し、化学兵器さえ使わなければいくら人を殺してもいいという誤ったメッセージを送った可能性さえある。昨年の唐突な米軍シリア空爆にアサド政権はビクともせず、イスラム社会の反米感情を煽っただけに終わったことを忘れたのか。大切なのは攻撃後のフォローアップだ。

 シリアは軍事的に解決できる問題ではない。戦争を終わらせる外交的ビジョンが必要な政治的問題なのだ。ホワイトハウスはミサイル攻撃によって外交的プロセスが促進されることを希望するとコメントしたが、新しい外交イニシアティブがなければただの根拠なき願望にすぎない。恐らくこの先のシリア戦略など考えてもいないのだろう。攻撃後の記者会見でマチス国防長官が今回の攻撃は「一回限り」のものだと説明したあたりに側近たちの苦悩がにじみ出ている。
 
 そもそも人権無視の大統領令を連発したトランプが化学兵器の非人道性などに関心があるとは到底思えない。なにしろアフリカやハイチ、エルサルバドルなどを「クソ溜め国家」と呼んで憚らない人物だ。息子のエリックによれば、トランプはシリア情勢に関心などしばらく前まで皆無だったという。昨年の空爆は、化学兵器の犠牲になったシリアの子供たちの姿をテレビで観た娘のイバンカが「パパ、こんなの酷すぎる」と言ったのが切っ掛けだ。なにしろトランプはイバンカを溺愛しており、本気で米国初の女性大統領にしたいと思っているようだ。

 ならば今回なぜ攻撃に踏み切ったのか。敵対するイランやロシアに対する警告という意味があるかもしれない。しかしそれ以上に国内事情が影響している。とくに怖い物知らずのはずのトランプがミュラー特別捜査官によるロシア疑惑捜査に恐れおののいていることだ。なぜならミュラーは海兵隊出身の高潔な人物で、トランプ流のはったりや脅しが通用しないからだ。捜査はロシアコネクションや司法妨害はもちろんのこと疑惑だらけのトランプの私的ビジネスにまで及ぶだろう。
 
 そんな中、米連邦捜査局(FBI)は4月9日、トランプの代理人を長く務めた弁護士マイケル・コーエン氏の事務所の捜索に踏み切った。コーエンはポルノ女優ストーミー・ダニエルズ(本名ステファニー・クリフォード)にトランプとの性的な関係をばらさないよう口止め料として13万ドル(約1400万円)支払ったことを認めている。大統領には知らせず自費で賄ったと言い張っているが、なにしろトランプの表も裏も知る人物だ。そんな人物に司直の手が伸びたとあってはさすがのトランプも心穏やかではあるまい。11月の中間選挙にも当然影響が出る。

 トランプにとって対シリア攻撃は、マスコミと巷の関心をそらすのにもってこいの手段だったに違いない。アメリカの大統領は自分が追い詰められると総じて戦争を始めることを考える。
しかしそのお陰でただでさえ困難な外交解決への道がさらに遠のいた。ロシアのプーチン大統領は声明で米英仏のシリア攻撃は「主権国家に対する国連憲章や国際法の原則に反した行動」と厳しく非難した。またシリアで化学兵器の被害を受けた子供たちの映像は“外国勢力”によるでっち上げだとも。
 
 「任務完了」というのは危険な言葉だ。2003年、ブッシュ大統領が米空母の甲板でイラク戦争終結を声高らかに宣言したときに使ったのが「任務完了!」 その後8年間も米軍はイラクに残り、4000人以上の米兵が命を落とした。2011年にいったん撤退したが、2014年にイスラム過激派ISとの戦闘のために再び従軍し、今もイラクにいる。

 やられたらやりかえすのが戦争だというトランプ思考に捕らわれてしまえば、我々人類は暴力の衝突から一歩も進歩することがない。(終)

2018/4/10 「世界のカオスの崖っぷち」

(川上高司 拓殖大学海外事情研究所所長)  

 4月7日、シリアのドウマで化学兵器が使用され、多くの市民が犠牲になった。9日には国連は緊急会合を持ち、この化学兵器使用はアサド政権によるものとし非難している。とりわけアメリカはトランプ大統領が「アサドには大きなツケを払ってもらう」と、軍事攻撃を示唆する発言をして、世界は不穏な空気に包まれている。

 この世界からの非難に対してロシアとイラン、シリア政府は「アサド政権が実行したものではない、ねつ造だ」と反論している。だが欧米は聞く耳を持たず軍事行動へとまっしぐらである。
 シリアではロシアの軍事支援のおかげでISISはほとんど勢力を失い、アサド政権側の勝利がほぼ確立している。ロシア、イラン、トルコの3カ国が、米露が打ち立てた和平の枠組みに代わって「アスタナ会議」の和平の枠組みによって内戦終結に向けて動き出したところだった。アサド大統領の存続は保障されており、あえて政府が化学兵器を使用するリスクをなぜ取るのか。しかもトランプ大統領は米軍をシリアから撤退させると表明したばかりだった。このままいけば、シリアはロシアとイランの影響下で再建されることになるはずだ。

 しかし、そのような流れを受け入れられない国がある。シリアにはロシアの軍事支援の他に、イラン革命隊とレバノンの過激派ヒズボラが入り込み軍事支援を行っている。シリアでのイランの影響力が強まれば、当然ヒズボラも強化されていく。ヒズボラとイランを敵と見なすイスラエルにとっては看過できない情勢である。アメリカがシリアから手を引くならば「イスラエルはやるべきことを強化していく」と元国連大使は強硬である。

 折しも9日にはイラン強硬派で鳴らしたジョン・ボルトンが国家安全保障担当補佐官に就任した。国務長官も強硬派のポンペオである。化学兵器の使用が本当は誰なのか、立証されることもなくシリアへの攻撃が開始される可能性は2013年の時より遙かに高い。前回と異なり今のアメリカの外交政策の暴走を止める賢者がいないのである。ロシアやイラン、ひいては中東を巻き込んだ世界的カオスに落ち込む崖っぷちに我々は立っている。

深層を読む(バックナンバー)