特定非営利活動法人 外交政策センター(FPC)

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2018年リムパックにおける陸上自衛隊地対艦ミサイル部隊参加の意義(2018/06/29)

関谷俊郁(中央大学博士課程後期)

 2018年6月27日から8月2日にかけてハワイ沖で実施されている環太平洋合同演習「リムパック2018」に、陸上自衛隊が今回初めて参加している。陸上自衛隊から12式地対艦ミサイル部隊が参加しているが、その狙いは一体何なのであろうか。狙いには大きく分けて2つのものがあると思われる。
 1つめが、中国軍の「接近阻止/領域拒否(以下、A2/AD)」能力の中核をなす対艦弾道・巡航ミサイルへの対抗訓練である。様々なところで指摘されている米空母の脆弱性を高めている中国軍の対艦弾道・巡航ミサイルに対し、どう対処していくのかという米海軍の課題を克服する狙いがあるとみられる。
 2つめの狙いは、中国が積極的に進めているA2/AD能力を用いた米水上艦艇への攻撃手法を、中国と対立している国家が取り入れ、中国に対抗することが出来るようにすることである。本記事では、この2つめの狙いを詳しく論じていく。
 中国のA2/ADに対抗するための構想として、エアシー・バトルやJAM―GC構想が近年米軍内で生み出されているが、これらの作戦構想は、明確なレッド・ラインが存在しない米中関係においては、非常に莫大なリスクとコストがかかるという指摘がされている。また、間接的アプローチである海洋拒否や遠距離封鎖といった構想も存在するが、これらに関しても、封鎖される海域に存在する沿岸国への経済的負担が増えるにもかかわらず、それらにどう対処していくかという議論がほとんどないという問題点もある。
 そこで、エアシー・バトル構想や間接的アプローチに代わるものとして、「Active Denial」といった戦略が提唱されている。同戦略においては、平時において、中国による海域・空域支配を拒否するために、中国周辺国のA2/AD能力向上をアメリカが支援するというものである。今回、南シナ海周辺国のうちフィリピン、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、タイ、そして初参加のベトナムが含まれているが、これらの国家が中国の海洋進出に対し、水上艦艇などの同様の能力で対抗出来ないことは明らかである。そこで、中国が米軍に対して用いているようなA2/AD能力を用いた戦略を、これらの国家にも採用させることができれば、低いコストで中国の海洋・空域支配を達成可能となる。今回のリムパックを通じて、そのノウハウをこれらの国家で共有できれば、これ以上ない収穫となるであろう。  以上のことから、今回の陸上自衛隊12式地対艦ミサイル部隊の参加は、中国のA2/AD能力への対抗と、中国に対してA2/AD能力を活用するという二面性のためであることが言えるだろう。

プラハの街角:ヴァーノツェのカプル(クリスマスの鯉)(2018/01/09)

細田尚志(チェコ・カレル大学社会学部講師)

 チェコでは、12月24日、つまりクリスマス・イブが、最も重要なイベントであり、この日ばかりは多くの店が昼の12時には営業を終了し、チェコ人の多くが、家族・親類とこの特別な日を過ごす。その一方で、年明け1月2日から普通に仕事が始まり、正月の雰囲気は全くない。このチェコのクリスマスといえば、クリスマス・ツリーやクリスマス・マーケットなども頭に浮かぶが、何はともあれ、最も印象深いのは「カプル(鯉)」であろう。
 24日の聖なる夕食は、鯉の内臓で出汁を取ったスープで始まり、メインとして鯉のフライに西洋わさびを付けてポテトサラダと共に食し、クリスマス・クッキーとコーヒーで締めるのである。さらに洗った鯉の鱗を一〜二枚、財布の中に入れておくと、1年間お金に困らないという迷信もある(その効果はあまり感じられぬが・・・)。
 このクリスマス・イブに鯉を食べる伝統は、24日を足のある動物の殺生・摂取を禁じる日とし、その代わりに足のない魚を食べるキリスト教の宗教的理由に起因するといわれ、チェコやスロバキアのみならず、ドイツ南部やアルザス地方、ポーランド、オーストリアと中欧地域一帯に広がる。無心論者の多いチェコでも、この日はキリスト教の伝統に身を委ねる。
 クリスマス・イブの一週間前くらいから、プラハの街角には、鯉を入れた大きな樽が置かれ、お客の注文を受けてから、職人たちがその場で鱗を取り内臓と身を分ける光景を目にする。故に、クリスマス前の一週間は、街中が鯉の匂いで魚臭くなるのが一種の風物詩だ。また、石畳に散らばる乾いた鯉の鱗も、淡く過ぎ去ったクリスマスを思い起こさせる小道具である。
 昔は、ヤン・フジェベイク監督の『Pelíšky (英題:Cosy Dens)』(1999年)に登場するように、生きたまま買った鯉を、水を張ったバスタブに一週間ほど入れて泥を吐かせる家庭も多かったようだが、現在は、その場で捌いてもらった鯉を持ち帰り、しばらく牛乳につけて臭みをとってからフライにすることが主流だそうだ。統計によると、鯉を食べる家庭はもはや6割程度で、今や、ケンタッキー・フライド・チキンで済ます家庭も増えていると聞く。
 民俗学の本を紐解くと、17世頃から高貴な層では魚を食べる風習が始まり、一般大衆層でもクリスマス・イブに鯉の煮こごり風の料理を食べる習慣が根付いたのは第一次大戦後のことのようだ。さらに、鯉のフライを食べる現在の「伝統」が定着したのは、食糧事情の改善や鯉の大量養殖が始まった第二次世界大戦後であるという。
 10月の下院選挙で、「イスラム系移民の侵略からチェコの伝統を守れ!」と主張する政党が躍進した。チェコ人の「伝統」とは何だろうと考えさせられる機会が増えた2017年であった。